PASTEXPERIENCE HISTORY

本能寺、江戸、ポンペイなどの言葉で検索できます。

場所から探す

1765〜19世紀前半|多色摺の仕事

一枚の浮世絵を作る四つの仕事

北斎が描いた一枚を商品にするまで。版元の企画と、彫師や摺師の技をたどる。

動かしてわかる歴史

線と色から一枚の絵へ

同じ紙を別の版に置くとき、なぜ目印が必要?

山と太陽の線を彫った版木から、輪郭を紙へ摺る。版木の図柄は紙に移すと左右が反転する。
01線を摺る
主版和紙見当

輪郭が現れる。まだ色の版は使っていない。

線を摺る主版

彫らずに残した凸面へ絵の具を付け、紙へ移す。描いた線を木に彫り直すので、絵師だけでなく彫師の技量も仕上がりに関わる。

図解の根拠と見方

工程や制度を説明するためのイメージです。人物・建物・配置は実物の復元ではありません。断面や別枠の場面は、見えない部分や別の場所を説明しています。

浮世絵版画大百科 ↗

線を摺る

100%

拡大した画像はスクロールして見られます。

山と太陽の線を彫った版木から、輪郭を紙へ摺る。版木の図柄は紙に移すと左右が反転する。

山と太陽の線を彫った版木から、輪郭を紙へ摺る。版木の図柄は紙に移すと左右が反転する。

絵を一点物から商品にする

肉筆画は紙や絹に直接描くが、木版画は版木から紙へ絵を移す。同じ図を繰り返し摺れるため、原画を複数の商品にできた。版元が企画と販売をまとめ、絵師が下絵を描き、彫師と摺師が版画に仕上げる。多くの買い手へ届く一枚には、この分業があった。絵師の署名があっても、紙の細い線を本人が一枚ずつ描いたわけではない。

浮世絵は役者や名所を描いた鑑賞用の絵だけでなく、団扇や広告にも使われた。当時の人々は店で選んで買い、持ち帰って日常でも使った。図柄には絵師の発想に加え、版元が考える売れる企画や買い手の好みが反映された。職人たちはその需要に応え、版を彫り、色を摺って商品を仕上げていた。

別々の版を同じ場所に重ねる

輪郭を彫った主版に続き、色ごとの版を同じ紙へ摺り重ねる。紙を置く位置がずれると、色は輪郭からはみ出してしまう。位置合わせの目印となったのが「見当」だった。彫師が作った版に摺師が正確に紙を合わせることで、線と色が重なる。多色摺には色を増やす工夫とともに、一枚の紙を何度も同じ位置へ置く技術が必要だった。

同じ図柄でも、摺った時期によって線や色が異なることがある。太田記念美術館は早い摺りと遅い摺りの比較を紹介している。紙の余白に残る見当の跡や、絵の中の版元印も、制作方法や刊行元を知る手がかりだ。違いをすぐ偽物の証拠とせず、どのように摺られ、その後どう保存されたかを調べる必要がある。

1741〜1744年ごろには、見当を使って少数の色を重ねる摺りが発展した。1765年ごろになると、絵暦を競って交換する流行を背景に、多色摺が大きく進んだ。墨一色から錦絵への変化は、一度の発明で起きたのではない。紙の位置を合わせる技術を磨き、色を増やす工夫を重ねたところへ、新しい絵を求める需要が加わった。

作品に使う紙の大きさを「判型」という。大きな紙を半分、さらに半分に切って使うなど、無駄を減らす工夫と関わっていた。絵師はその縦横に合わせて構図を考える。絵のサイズは後の額装で決まるだけでなく、原料の紙を何枚の商品にするかという出版の都合にも左右された。

買われた一枚が美術館へ届くまで

版元印からは刊行した店が分かり、所蔵印からは後に持っていた人をたどれる。同じ紙の上に、制作と販売、その後の収集や保管の記録が重なっている。余白や小さな印にも目を向ければ、絵が人の手を渡った経緯を調べられる。ただし、現在の色の鮮やかさだけで、当時の売り場での見え方までは再現できない。

明治に写真や新聞が広まると、情報を伝える浮世絵の役割は変わった。それでも木版画の技術はすぐには失われず、職人に受け継がれた。日常の商品だった絵は、後に美術品として収集・展示されるようにもなった。今美術館で見る波の一枚にも、江戸の出版から後世の保存まで、人々が関わった長い経緯がある。

前後の流れ

  1. 1741〜1744年ごろ

    見当によって少数の色を重ねる摺りが発展。

  2. 1765年ごろ

    多色摺の技術が大きく発展。

  3. 19世紀前半

    北斎の富士シリーズが出版される時期。

  4. 明治期

    写真や新聞が情報を伝える役割を広げる。

言葉の意味

版元
出版を企画し制作と販売をまとめる人。
見当
紙を版木の同じ位置に置くための目印。
肉筆画・版画
直接描く絵と版から摺る絵。作り方を区別する。

史料から分かること

複数の専門職が制作に関わった。

美術館の解説が絵師・彫師・摺師の分業を示す。

史料だけでは分からないこと

絵師の署名だけで全作業を本人の仕事としない。

主線の色は同じシリーズでも違う。

富士展の解説が藍の主線と墨の主線を区別する。

史料だけでは分からないこと

現在の一枚の色が全摺りの標準とは限らない。

理解を確かめる

答えを選ぶと解説が表示されます。本文や資料を読み返しながら考えてみよう。

1. 輪郭に色を重ねたら、色だけが右へずれた。「見当」を使って何を確かめる?
この場所の物語を体験する4章・全編無料

参考資料

  1. 浮世絵版画大百科すみだ北斎美術館

    1765年の多色摺、分業、版木と摺り。

  2. 北斎×富士展すみだ北斎美術館

    富士シリーズの主線の色、彫師との関係、版本。

  3. 深掘り!浮世絵の見方太田記念美術館

    摺りの目印の見当、版元印や所蔵印から読む版画。